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【こんな信大生いたのか!#3】「酪農に、翔ける。」川村遊-農学4年

  • 2022.01.06
  • 2022.10.18
  • インタビュー
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【こんな信大生いたのか!】シリーズとは

信州大学において、独自の視点から主体的に行動し、学生生活を楽しんでいる信大生をインタビューする企画。読んだ後に、「こんな信大生いたのか!」と声が出てしまう…。一度取材した学生に次の学生を紹介してもらうという数珠繋ぎのようなスタイルで紹介していきます!学年学部問わず、院生から留学生まで幅広くインタビューしていくので、これからもお楽しみに!

⇨こんな信大生いたのかシリーズはこちらから

今回取材した信大生!

まずは簡単にプロフィール紹介!

氏名川村 遊 -Yu Kawamura- 東京都出身
所属農学部動物資源生命科学コース4年
趣味映画鑑賞(おすすめは『クレイマー、クレイマー』)、お菓子作り
好きな動物犬(特にレトリーバー)、牛(特にブラウンスイス)
尊敬している人ニュージーランドのホストファミリー(詳細は後述)

農学部のY.Kちゃん

ライター:前回取材した上野さんが、川村さんを尊敬する人として、”農学部のY.Kちゃん”と挙げられていましたね。

川村さん:そうです(笑)記事見てびっくりしました。でも、本当にうれしくて。

ライター:そんな上野さんから川村さんは「酪農が大好き」と聞いたのですが…

川村さん:はい、もう酪農がすごく好きです。

ライター:酪農…珍しい印象ですが、 大学ではどんなことをしていたのでしょうか?

川村さん:前は、「Animal Welfare(動物福祉)」という”酪農や畜産の動物たちがストレスなく快適に過ごせる環境づくり”について学んでいました。今は、違う分野を研究しているんだけど…

大学生活を振り返ると、座って勉強というよりは動いて行動していた印象かな。酪農家になりたいという思いを持って、走り続けてきた…という感じです。

ライター:酪農家!その酪農家に向かっていく行動についてお聞きしたいです!

川村さん:え~と、どこから話そうかな…あっ、そうそう来年、酪農家になります

ライター:へ?

酪農に興味を持ったきかっけ~人生が変わった出会い~

ライター:えーと。ちょっと状況が読み込めないので、そんな川村さんが酪農に興味をもった”きっかけ”からお聞きしたいです(動揺)。

川村さん:わかりました(笑)まず、私が酪農に出会ったのは中学3年生の頃です。

ホストファミリーと海水浴に来た時の一枚。勿論、お父さんはカメラマン。

修学旅行でニュージーランドに3週間、ホームステイをしに行きました。それはもう充実した日々を送っていたんだけど、特にホストファミリー(受け入れ先の家族)のおもてなしに感動して…。たった3週間だったのに、本物の家族のように迎え入れてくれて、すごく温かみのある家族だったんです。帰国した後に、「あんな家族いいなぁ」と思うと同時に「また会いたい!」っていう感情が出てきて、「どうしたらまた会えるんだろう?」と考え始めました。

ホストファミリーは酪農家では無かったけど、ニュージーランドは酪農が盛んで、住民にとって酪農は身近な存在なんです。そこで、「こんな温かい家族の生き方には酪農が関係してるのではないか。それが違うにしても、酪農が有名なこの地にまた来るなら、酪農家として来たい。酪農家になろう」そう、思うようになったんです。

当時は、酪農それ自体に興味があるというより、「またこの地に戻ってきたい」という強い気持ちが強かったのかな。

ライター:…それから、走っているうちに、気づけばドンドン酪農にという感じですか?

川村さん:そうですね。高校生の頃に、とある牧場へ「1カ月研修させてください」とお願いして研修しに行ったり、何か行動する中で酪農にハマっていき…それが気づけば、アイデンティティの一部にもなっていったという感じです。

酪農に翔けた信大生活

ライター:ある意味運命的な出会いから、酪農に興味を持ち始めたわけですが、信大に入学してからはどんな行動をしたのでしょうか?

「土地を貸してください」

川村さん:まず松本キャンパスにいる間は、畑で野菜を育てていました。元々、”何かをつくる”ことが好きだったので、身近な土地で自分の手で何かを生み出してみたい。そこで畑を探していた時に、丁度近所の畑に人がいたので、「土地を貸してください」といきなりお願いしてみました。

ライター:いきなり…ですね(笑)

川村さん:はい(笑)でも、快く了承してくださって、土地を借りることができました。

冬が近かったので葉物野菜中心です。(川村さん)

ライター:きっと川村さんのやる気あふれる姿に惚れたんだろうなぁ…。ところで、農業と酪農は近いけど違うものですが、実際に育ててみてどうでしたか?

川村さん不便も楽しいなって思いました。水道が通ってなかった畑だったので、毎回自分で水を汲んでくる必要があって…。でも近所の方が助けてくれたり、自分の工夫で何とか解決したり、そういう不便な方が人とのつながりや自分の創意工夫による成長がわかりやすく楽しかったです。自分の成長がわかるとより成長したくなるというか…。さらに不便を楽しむこと自体、酪農でも役立つ上に、そういう場面は多いですし。

ライター:その分、愛情がこもってより美味しく感じそうです。

試行錯誤の日々

川村さん:伊那キャンパスに移ってからは、酪農で有名な”北海道”に初めて行って研修したり、コースのプログラムでニュージーランドに行ったり(ホストファミリーとも再会)、酪農にまつわる色んなことを経験しました。

ライター:専門科目が増えるにつれ、より興味が増しますよね。そんな中での初めての北海道はどうでしたか?

川村さん:それはもう楽しかったですし充実していました。ただ、少し悔しい思いもしました。

というのも、今まで酪農に興味があることが珍しい環境に対して、北海道には、酪農一筋の学生や酪農一家の学生がたくさんいたんです。今まで個性だと思ってきたものが、同じような人に囲まれて、”普通”…むしろ、その人達と比べてしまって、挫折のような気持ちを味わいました。そこで、初めて「もっと酪農を絡めた私にしかない何かを求めたい」と思うようになったんです。

ライター:大海に飛び込んだんですね…。その挫折をどうやって乗り越えたんでしょうか?

川村さん:そう思ってからは、将来どんな風に酪農に関わっていくのかを常に考えていました。酪農家になるにしても、自分で起業するのか、従業員として働くのか、場所は?どんな酪農?…考えたらキリがないくらいです。ただ、考えるだけではダメだと思ったので、それらを判断するために、常に行動してチャンスを得ようとしていました。そのためにも、度々北海道に行くようになりました。

酪農家になるという思いが揺らぎつつも、常に考えながら行動して…試行錯誤を繰り返していたんだと思います。そうしているうちに、「こんな将来の選択の時に、実際に行動に移せる人は少ない」ということに気付いて、徐々に自信が持てるようになりました。

ライター:揺らぎながら試行錯誤をされてきたみたいですが、それだけ行動できたということは、やはり確固たる思いがあった気がします…。

酪農留学中止からの大どんでん返し

川村さん:とはいえ、中々将来につながるような発見やチャンスが得られなくて、今思えば焦っていたように思います。そんな焦りを感じつつも、こんな中途半端なまま進路を決めたくないと思い、休学した上で「オランダ酪農留学」に行くことに決めました。

ライター:ここで、コロナか…

川村さん:はい…。そのまま中止になりました。その代わり、今まで得たつながりをフル活用して、北海道の牧場を渡り歩く生活をしていました。結局、7つ…ぐらいかな、牧場で研修させてもらって、さらに濃い経験をさせてもらったという感じです。

7つの牧場をめぐる中でのワンシーン。素敵だ…(ライター)

ライター:7つ!? …もう何言われても驚きませんが、行ってみての感想はどうでしょうか?

川村さん:楽しかったです!楽しむだけじゃなく、将来についてしっかり考えながらも、しっかり行動できていたと思います。今だからこそ言えますが、留学に行くよりも良かったんじゃないかな…。それに、彼とも出会えたし…。

酪農家になる

ライター:もしかして…

川村さん:そこで出会ったのが、今の彼氏であり婚約者。大学卒業後、結婚する予定です。そして、彼が酪農家なので、結婚と同時に私も酪農家になります

ライター:おめでとうございます!!そういうことだったんですね…。恋バナについて詳しく聞きたいところですが…(ぐっとこらえて)、まず、牧場についてお聞きしたいです。

川村さん:私達の牧場は、少し変わった飼育方法をしていて、乳牛を「グラスフェッド(grass-fed)」という”牧草だけで育てる”手法をとっています。そのため、広大な牧草地で放牧しています。

牧場での一枚。牧草地が一面に広がっているが、これはほんの一部。

ライター:一般的な酪農がトウモロコシなどの穀物で育てているのは知っていましたが、そういう育て方もあるんですね!かなり、広そうですが、規模的にはどれくらいでしょうか?

川村さん: 放牧となると休ませる牧草地も必要なので、かなり広いです。大体、東京ドーム15個分くらいかな…?とはいっても、”どんどん拡大していく”というよりは、”自分たちの手で育てていく”スタンスなので、家族だけで運営できるように規模を調整していますね。

ライター:酪農も規模の経済が効きやすそうですが、”家族だけで”なんですね。

川村さん:はい。自分たち(家族)の手で育てていくからこそ、牛さん達とも良い関係を築けて、その間に生まれた製品に誇りを持てるようになる。その誇りが、生産者と消費者をつなぐ架け橋になり、良い循環を生んでいく…と考えているので、拡大せずに目の前の牛さん達と日々向き合っています。

それに、家族だけで行うことで、酪農に関わる行動が全て”日々の生活”に溶け込んでいく。そうすると、一般的な”働く”ではなく、生活の一部として動く、楽しむことができる。好きなことで生きていくことができる。上手く伝えれないのですが…なので、私がそう思う”働き方”には、”家族だけで”というのは必須なんです。

勿論、わんちゃんたちも家族の一員

ライター:「Work as Life」の考え方ですね…。

 ⇨なぜワーク・ライフ・バランスではなく、ワーク・アズ・ライフなのか?より知りたい方は、落合陽一著『日本再興戦略(幻冬舎, 2018年)』のご一読をおすすめします。信州大学中央図書館でも貸出しています。

川村さんの原風景には、ニュージーランドでの体験があるのでしょうか…。ゆえに、この働き方なのかなと。少なくとも、川村さんが描こうとする”酪農”には、温かくぬくもりをもった印象を抱きました。それと同時に、そんな環境で作られる牛乳は美味しいに違いないので、早く飲んでみたいです(食いしん坊)!

川村さん:是非いらしてください(笑)それに、私自身が”作る”ことが好きなので、いつかバターとか作りたいんですよね。その時は一緒に是非!

ライター:グラスフェッドバター…はちゃめちゃ楽しみです!(垂涎)

それに、川村さんの描く酪農人生も楽しみです!これから、どんな酪農家でありたいですか?

川村さん:まずは、「この土地でとれた牛乳です」と誇りを持てるようになりたいですね。そのためには、しっかりと牛さん達に向き合いながら、牧場での酪農生活に順応してきたいです。

そして、”Work as Lifeのような働き方”や”酪農という職業”、”グラスフェッドという手法”に自ら参画し、体現することで、それらの新しい姿を見せていきたい。その姿をみせることで、働き方・職業・手法を広めていきたいです。

それと、私自身がニュージーランドでのホームステイで人生が変わったので、その分、私も人を受け入れていきたいと思っています。酪農や牧場に興味がなくとも、刺激を受けて自分のやりたいことの発見やそれに突き進むきっかけになってくれれば…と。

勿論、”家族だけで”できる範囲かつ本職を疎かにしてはならないので、いつになるかわかりませんが、そんな酪農家になりたいですね。

酪農家人生、ここからがスタートなので、楽しみます!(川村さん)

ライターあとがき

「考えずにすぐ行動する」や「じっくり考えてから行動する」とか、どちらか一方しかしない風に聞こえてしまう二元論的なアドバイスをよく聞きますが、結局のところ、「すぐ行動するためには、日頃からしっかりと考える必要があるし、行動しつつも考えていく」というような両輪で進んでいくことが肝要なんだなと川村さんの姿を見て感じました。大学生はいきなり世界が広がり、考えることが多くなります。そこで求められるのは、”考えない力”ではなく、日頃から考えることにより”考えることにかけるコストを小さくしていく”ことではないでしょうか。そうしていくうちに、何かにかける思いや軸が定まり、中身が伴った行動が溢れてくる。そんな姿を周囲は応援したくなる。川村さんのそんな姿を見て、ある人は土地を貸し、ある人は牧場に受け入れ、人を紹介してくれた…のかなと。

僕もその一人でもあるのですが、応援の1つの形として、この記事が少しでも多くの信大生に届き、何かのきっかけになれば…という思いで書かせていただきました。その結果がわかるのは、またこれからですが、楽しみですね。

最後にはなりますが、川村さん、取材を快く引き受けていただきありがとうございました!勝手ながら、酪農家人生応援させていただきます!

次回【こんな信大生いたのかシリーズ#4】は2月掲載予定です!お楽しみに~♪

この記事を書いた人

ヒロ

ヒロ

信大GUIDEメンバー・経法/法所属 色んな分野をつなぐことが大好物。

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